現場コラム【都会を離れて田舎で暮らす。農業もはじめてみる】
第1回 「名探偵ポワロ」と田舎暮らし
アガサ・クリスティの代表作『名探偵ポワロ』の主人公、私立探偵エルキュール・ポワロは、一度、探偵業を引退して田舎暮らしをしたことがあることを知っていますか?
首都ロンドンの高級マンションに事務所を構え、社交界でも活躍したポワロですが、「アクロイド殺人事件」で彼は、探偵業を引退し、ロンドンを離れてキングズ・アボット村に移り住み、なんと冬瓜づくりに精を出しているのです。
この“都会を離れて田舎に移り住み、農作業を愉しむ”というライフスタイルは、欧米でこそ広く行われているものの、これまで、日本人にはあまり馴染み深いものではありませんでした。
落語にしばしば「横町の隠居」が出てきますが、都市生活者はその一生を都市の中で終えるのが一般的であって、都会から(比較的)不便な田舎に移り住み、まして農業をはじめようなどという人は、日本では稀な存在だったといえるでしょう。
しかし、近年、この傾向は変わりつつあります。
農林水産省によれば、新規就農者の数は、1990年にはわずか1万6千人程度でしたが、2000年代に入り毎年おおよそ約6~8万人にものぼっています。うち、もともと家が農家であるという訳ではない、“はじめて農業をすることになった人”(非自営農業就業者)が毎年約1万人もいるのです。
しかも、この約1万人のうち、39歳以下の若年層が約6千人を占めるのです。つまり、こんにちの日本では、“都会を離れて田舎に移り住み、農作業を愉しむ”というライフスタイルが、中高年層のみならず、若年層にも広まりつつあるといえます。
しかしながら、都会から田舎に移り住み、農作業しながら生活していくことは、必ずしも簡単なことではありません。田舎に馴染めなかったり、農業がうまくいかなかったりして、再び都会へ戻る人が少なくないのも事実です。頭脳明晰なポワロでさえ、田舎暮らしの難しさを正確に予見できず、嫌気がさしてロンドンへ戻ってしまいます。
そこで、このコラムでは、「田舎暮らしをしてみたい。できれば農作業もやってみたい」と漠然と田舎暮らしや農作業のことを思い描いている若い皆さんを対象に、様々な角度から、失敗しにくい田舎暮らしと農業のはじめかたについてお話ししていきます。
なお、田舎暮らしに成功し、農作業の愉しみを十分に享受している人は、もちろんたくさんいます。ポワロのように、移住先で殺人事件に遭遇する人は、極めて稀ですので、念のため。