現場コラム【都会を離れて田舎で暮らす。農業もはじめてみる】
第4回 農業のスキルを身につける
社会人の方も学生の方も、新しく入ってきた1年生のことを「新米」と呼ぶことがありますよね。
じゃあ、先輩のオレたちは「古米」なのか、いや3年生は「古々米」だ、なんていう話になるかもしれませんが、新入りを表すこの「新米」という言葉、実は農業用語の「新米」ではありません。
農業用語の「新米」というのは、明確な定義は無いのですが、大まかに言えば、収穫から1年以内のお米のことです。
(以降、1年区切りで古米、古々米、古々々米・・・と続きます)
一方、新入りを表す「新米」というのは、実は商人言葉に由来があり、その昔、前掛けがまだ新しいさまから丁稚(小僧)のことを「新前」と呼ぶことがあったため、これが転じて、新入りを「新米」と呼ぶようになったのです。
そもそも、農家には、この「新米」にあたる概念がありませんでした。
農業技術は基本的に家伝であって、農家の子供たちは幼い頃から農作業に駆り出されるのが一般的でしたから、丁稚のように外部から農業技術を学びにやってくる人がいたわけではありませんでした。
農家が子供たちを幼い頃から農作業に従事させるのは、農作業に労働力が必要であるからという理由以外に、もう1つ理由があります。
それは、農業というのが、知識をたくさん習得すればよいという性質のものでなく、経験が大きくモノを言うものだということです。
農業は、生き物を取り扱う生物産業であって、常に変化する土地の状態や気候などの自然環境に柔軟に対応しながら、作物と対話していくことが、農業者には求められます。
これから農業をはじめてみようというみなさんは、家伝だったこの勘どころを、本格的に農業者となる前にどうやって短期間で身に付けるのか、検討する必要があるのです。
その方法は、大きく分けて3つあります。
農業者になるための方法 その1
農業法人に就職することです。
農業法人については次回、詳しく説明しますが、農業法人というのは簡単にいえば、農作物を生産している会社のことです。
いち農家が法人格を取得して農業法人になっているものから、多数の従業員を雇い本格的に大規模経営を行っているものまで、農業法人にもいろいろとあるのですが、大規模経営を行っている農業法人の中には、研修制度を充実させ、従業員にもOJTを施し、ゆくゆくは暖簾分けを目指すように教育体制を構築しているところもあります。
農業法人への就職は、農地や機械を自分で用意しなくとも、すぐに農業を体験できるので、元手がないけれどもすぐに農業を始めたい人は、検討してみる価値があります。
ただし、農業法人とはいえ会社には変わりありませんから、もちろん入社面接があり、農業技術の有無や、農業に対する心意気などについて詳しく問われますので、消極的な気持ちから農業をはじめようと思い至った人には、不向きでしょう。
農業者になるための方法 その2
農業系の学校に入学することです。
農業系の学校には、農業高校、農業大学、農業大学校のほか、民間の農業学校もあり、みなさんの教育段階に応じて、適切な教育を受けることができます。
また、就職支援として、普通の高校や大学では受けられないような、様々な就農支援を受けられたり、周囲に就農しようとする仲間が比較的多いため情報交換したり切磋琢磨したりできるという環境が整っていたりします。
現在、学生の方は、農業高校や農業大学などに進学することを念頭に入れても良いかと思いますが、社会人の方にとっては、数年間を収入の無い学生生活に費やすことになるので、ある程度の元手がある場合にのみ選択できる方法であるといえます。
農業者になるための方法 その3
地域社会で行われている農業体験講座に参加したり、農業研修施設に入ったりすることです。
全国新規就農相談センターや、各地域の就農支援センターが主催するものから、農家が主催するものまで、全国各地で様々な農業体験講座や農業研修が開催されています。
その内容も、全く農作業を経験したことがない人がとりあえず農作業を体験してみる日帰りのものから、新規就農希望者へ実践的な農業技術を数ヶ月間にわたってしっかりと教え込むものまで、様々です。
全国新規就農相談センターのウェブサイトは、こういった農業体験や農業研修の情報が充実していますので、一度、覗いてみてはいかがでしょうか。
ただし、必ずしもこのサイトに全ての情報が載っているわけではないので、例えば残留農薬の問題に関心があり有機農業をやってみたいと思っている方は、有機農産物の産地の市町村役場に電話し、有機作物の農業体験や農業研修を受けられるところがあるかどうか、問い合わせてみるといったことも同時に行ってみて下さい。
現在、すでに田舎暮らしをなさっている方は、近くにこういった農業体験や農業研修を受けられる施設があるかどうか確認してみてもよいかと思いますが、都会暮らしをなさっている方は、なかなか長期間の充実した研修を田舎の施設で受けることが難しいかもしれません。
都会暮らしをなさっている方は、まずは短期間の農業体験や農業研修を何度か受け、現地農家の方々や実際に新規就農なさった方々からお話を伺い、自分に合った新規就農のスタイルを模索していくのが良いかもしれません。
なお、農業技術の習得ではなくとも、まずは農作業体験をしてみたいと思ったなら、以上のような各機関によるプログラムを受ける方法のほか、個人的なツテを頼るという方法もあります。
みなさんの親戚に、または友人の親戚に、1軒くらい農家はありませんか?
地域外のよそ者には警戒的な田舎の農家であっても、本当は心優しい人が多いので、個人的なツテで農作業体験を頼まれれば、快く了解してくれる可能性が高いです。
また、その農家から、次の農作業体験先を紹介してもらうなどすれば、実際に新規就農した場合の大きな問題の1つとなる「地域社会の人間関係」というものを実感しながら、農作業体験を行うことができるでしょう。
ちなみに、農業体験や農業研修をしたり、農業技術を教えてもらうときは、常に周囲との人間関係を良好に保つように留意しましょう。
農業というのは、例えば、1軒の農家が用水路の掃除を怠れば全ての農家に悪影響が出てしまうように、地域社会全体で協力しながら行うものです。
農家は、常に、受講生が、自分たちの仲間として受け入れて良い人なのか、そうでない人なのかを感じ取っています。
仲間として迎え入れたい人だと思ってもらえると、懇切丁寧に農業技術を教えてもらうことができます。
この、周囲との人間関係を良好に保つ能力は、農業体験や農業研修時はもちろんですが、新規就農してから最も重要なものの1つです。
農業体験や農業研修の際には、実際の農家はどういう人々なのかをよく観察し、農家の中でよりよい人間関係を構築することにも気を配りましょう。
農業を学ぶ学校として
大学農学部と農業大学校の違い
これから農業を学んでみようというみなさん、特に高校生のみなさんにとっては、農学部と農業大学校の違いが分かりにくいかもしれません。
大まかにいえば、「農業や農作物のことを科学的に考える力を身につける」のが農学部、「農家になるために必要な知識や技術を身につける」のが農業大学校です。
例えば、みなさんが稲作農家になることを考えているとすると、生物学や化学を基礎として、おいしくて病気に強いお米をたくさん作る方法を考える力が身に付くのが農学部、農業簿記や農業機械の技術習得を基礎としながら、どんなお米をどれくらい作付けしてどうやって育てていけば良いかを考える力が身に付くのが農業大学校です。
ただし、農学部のカリキュラムはどの大学でもそれほど大きな違いはありませんが、農業大学校のカリキュラムは学校毎にかなり違うので注意が必要です。
農学部のような科学的な科目を中心に提供しているところもあれば、農場実習の科目を中心に提供しているところもあります。
また、農業大学校は、農業者の育成を目的として、おおよそ各都道府県に1つ設置されているものなので、各都道府県の農業事情に即したカリキュラム構成になっているのが普通なので、提供される科目に地域性が強く現れます。
農学部と農業大学校のどちらに入学するかを考える際には、カリキュラムなどを検討するとともに、どの都道府県で就農するのかについても考慮に入れておきましょう。