今日本の社会福祉は、利用者の住み慣れた家や地域における継続的な支援が重要視されています。私たちの生活を鑑みても、地域や社会の中の様々な関係性の中でそれが成り立っているわけですから、それは自明の理だと思います。しかしながら、旧来の社会福祉実践の中では、利用者を地域から切り離して、施設に入所していただき、施設の中だけで完結する生活を強いてきた歴史があります。
そのことに対する猛省からか、今の社会福祉及びこれからの社会福祉の主流はそうなってはおりません。認知症になっても、介護が必要になっても、今まで繋がっていた人々との関係を継続して有することができる。馴染みの金融機関や、商店に通いながら、仲の良い住民と共に生活し続けることが許される実践が求められているのです。

ある地域に、認知症高齢者がお一人で住んでいました。お一人暮らしが何とかできるであろう要介護2と言う要介護認定を受けていらっしゃる方でしたが、毎日馴染みの信用金庫に自転車で通いそこで小銭を下ろします。信用金庫の馴染みの職員さんと窓口で会話をし、帰りに行き付けの商店でお総菜を買って、店の軒先で店員や地域住民と会話をして家に帰る生活を続けておられました。
恐らくこの方は、住み慣れた地域であるからこそ、認知症でありながらもこのような生活が継続できているのだと思われます。もしも、縁もゆかりもない地域や施設に移り住んでいらっしゃったなら、間違いなく如上と同様の生活はできなかったことでしょう。長年培ってきた環境や人間関係は人々にとって掛け替えのない財産なのだと私たちは考えます。だからこそ、住み慣れた地域で継続して生活できることは利用者にとって大切な営みなのです。
また地域の中には、認知症に対する偏見や間違った考え方も多く蔓延しているのも事実です。火事を出してもらっては困るから、ゴミ出しの日を間違えてもらっては困るから早く施設に入ってもらいたいと懇願してくる住民もいます。私たちはその際、認知症高齢者の思いを大切にそれを地域住民に対して代弁し、認知症になっても介護サービスや周囲の環境を整えれば、十分に地域の中での生活が継続できることを伝えていきます。認知症の方に対する偏見を減退させ、逆に理解や協力が醸成できれば、多くの認知症高齢者はその地域で安心して暮らせることでしょう。
この様に、私たちの仕事は、生活課題を抱えていらっしゃる利用者の地域生活を継続的に支援するのみならず、地域社会に対する働きかけや変革をも行う仕事です。認知症の高齢者が、自分らしく安心して暮らせる地域社会は、誰もが自分らしく安心して暮らせる社会でもあるはずですから、利用者の支援を通して、自らが住みやすい社会を再構築する仕事であるとも言えます。

介護保険制度における地域密着型サービスとは斯かる理念に基づいたサービスと言えます。ただ単に、利用者の生活における困難な点を“穴埋めする”仕事ではなく、地域環境に働きかけを行って利用者がより生き生きと生活できる地域社会をつくることが最終的な目的です。
巷では、介護や福祉の仕事は3Kの仕事だと言われています。それは、私たちの仕事の一部を誇張して取り上げた誤った見解であると私は強く感じています。産業界の仕事では、皆様々なジレンマや葛藤を持ちながら仕事をしています。自社製品よりも優れた他社製品があるにもかかわらず、自社製品を嘯いてでも売らなければならないジレンマや、自社が販売した製品で取り返しのつかない事故が起こることも珍しくはありません。もちろん、そうやって社会は成り立っているのですが、私たちの仕事を見てください。正規の専門性に則って、利用者の支援を行う限りにおいては、誰も不幸な人を生み出さないばかりか、全ての人を幸福に導くことも出来るはずです。介護や福祉の仕事は、このような非常に社会性の高い仕事であると言えます。社会的使命感や、責任感の全う出来る数少ない仕事です。
そして、私たちの仕事は、多少の犠牲はやむを得ないと言った発想と決別し、全ての人々が幸せになる道を模索するものであることを鑑みても、未来を先導していく仕事であると断言できます。
少し大きなテーマでお話をしすぎたかもしれませんが、私たち介護や福祉の専門職は、目の前の利用者の幸せづくりを通して、社会全体を幸せにし得る専門職であることを是非皆様方にご理解していただきたいのです。
私や、私の仲間は皆この仕事に誇りを持っています。ですから、この仕事を馬鹿にする人間を私たちは許せません。この仕事を何よりも大切に思っているからです。そのような社会性と志のある職場でこそ、得られる人生の糧があると自身は考えます。間違いなく、将来性と充実感の得られる仕事です。是非、一度門を叩いてみてください。