現場コラム【多様な介護の仕事】 -2-
介護スタッフと傾聴ボランティア
傾聴ボランティアをご存知ですか?
「傾聴ボランティア」という言葉を聞いたことはありますか?「傾聴」なんて、いかにも仰々しい言葉ですね。平たく言えば、「話し相手」ボランティアということなのです。私は「傾聴」という言葉が大げさで好きではないのですが、介護周辺の世界では、利用者の話を聴くことを「傾聴」とあえて言うようです。また、相手の話を積極的に「耳を傾けて聴く」必要があるので、この字を使います。
私がこの仕事を始めた理由は
私は4年ほど「傾聴ボランティア」として活動していて、施設や個人宅にお邪魔して、お年寄りの方のお話を聴いています。「傾聴ボランティア」の役割は、お相手の話をただ聴くこと。それは相手の話を否定しないで聴き、「ああこの方はその時そう思ったのだ。だからそんなふうに行動したのだ」と内容を受け入れていくことです。話をする方が高齢であればなおさら、自分の人生でやってきたことを振り返り、認めておきたい気持ちもあるでしょう。今ここ(施設や自宅での)での居場所や役割が何なのかを探しているかもしれません。また、高齢になり自分の思うように体が動かせなくなったり、認知症になったりすると、不安な気持ちが大きくなったりします。そんな思いにも寄り添います。話し手が自分の思いを語ることで、自分の心が軽くなり、胸の中のつかえがとれるようなお手伝いができればと思って始めたのが活動のきっかけです。
介護スタッフとは異なる傾聴ボランティアのスタンス
一方で、話を聴くのは「傾聴ボランティア」でなくても、ふだん接する機会が多い介護スタッフ(ヘルパーさんなど)で十分ではないかという意見もよく聞きます。長い時間接している方が信頼関係も生まれやすいので、もっともな意見です。しかし現状では、介護スタッフの日々の業務は多忙で、一人ひとりの利用者の話を30分、1時間と聴く時間は持てません。また、話を1時間聴くことの集中は意外にハードです。また、相手の話を促す“間”や頷き方もあったりするので、実は「ボランティア」と言え、訓練を必要とします。
例えば、施設でAさんという方の話を聴いた際、同じ利用者であるBさんのことを気に入らないという話をするとします。傾聴ボランティアは、「悪口」も聴きます。その時、「Aさんはそう思ったのね!」と相手の話を受容しますが、Aさんに「そうだ、そうだ。あなたの方が正しい」と、正しいか間違っているかを下すことはしません。なぜ、この人は「この悪口」を言いたいのか、この人が本当に訴えたいこと、心底にある気持ちは何なのかを話全体や顔の表情等から考えていくのが、傾聴ボランティアです。Aさんは介護スタッフに甘えたい気持ちがあっても素直な思いが出せず、Bさんの「悪口」にすり替えているのか?家族に会えない寂しさが「悪口」なっているのか?被害妄想なのか等いろいろな面から考え、本当の気持ちを探っていったりもします。Aさんの心底の思いをAさん自身が分ってもらえるのが一番ですが、とにかくAさんの思いを吐き出して、さっぱりしてもらうことを目指します。吐き出してもらうためには、「傾聴ボランティア」は相手とバリアフリーの関係をつくっていく工夫も大事なのです。
介護スタッフならBさんの悪口をいうAさんに「みんなで仲良くしましょうね」といった、利用者全体を考えた発言をすることが多いと思いますが、傾聴ボランティアは個人の気持ちに焦点を当てていきます。
さらに、「傾聴ボランティア」は、相手が話した内容を誰にも漏らさないのが原則です。それが話し相手との信頼関係にもつながります。生命の危険やその他の緊急が伴うような事態の話であれば、本人の了承を得て、介護スタッフや家族に話の内容を伝えることもありますが、ごく稀なことです。カンファレンスとして、医療・介護スタッフ全員で個人の情報共有をしていくのとは違ってきます。
傾聴ボランティアの立場から思うこと。
このように、介護スタッフと傾聴活動は別々の役割を担っています。介護する相手、話を聴く相手それぞれを一番に考えるのは介護スタッフも傾聴ボランティアも一緒ですが、今の現状では時間的な問題も含め、両者は活動が別になってしまうようです。そして、一番残念なのは、傾聴ボランティアが、相手に向き合い話を聴いても、介護保険の適用外の活動なのです。ボランティアとはいえ、話を聴くことも大切なケアだと思っています。コミュニケーション活動って軽んじられてしまうものなんだなぁと、ちょっと残念な感じもします。