先月から外国人の方が介護職員として入職して来ました。彼女は三十代後半で日本人のご主人との間に高校生になるお子さんがいます。在日12年になるフィリピンの方です。仮に名前をマリーンさんとしましょう。マリーンさんは身長150cmくらいで体格も細身でどちらかというと小柄できゃしゃな女性です。笑顔がとても可愛らしく入職早々利用者の方々にも人気者です。お子さんが高校生になり時間に少し余裕が出来たので、ホームヘルパー講座を受講しパート職として介護の仕事を選んだとの事です。フィリピン人の友人から（市内にコミュニティがあるらしい）時給は他の仕事よりも多少良いと聞いて決断したと言っています。清掃業や食品工場などの勤務経験も少しある様ですが、けっこう厳しい労働条件で給与も日本人と色分けされた様です。現在私が勤務している有料老人ホームでは、国籍について法的な在留資格が適切に処理されていれば特に問題にしてはいません。給与面も日本人とかわりませんし、有給休暇や健康保険などの福利厚生も同じ様に適用されます。それまでマリーンさんが勤めた職場と比較すれば、まだ安心な職場といえるでしょう。他の訪問介護事業所の面接も何社か受けたそうですが、難しい漢字が読めないので「地図を見ながら利用者のお宅を訪問することが難しい」と話しています。介護の仕事は初めてですが、自宅でご主人のお母さんを介護しているとのことで、高齢者の方への接し方も慣れています。小柄な体型に似合わずベッドから車いすへの移乗介助や排泄介助の際の体位変換などけっこう軽々とやってのけます。
利用者さんとのコミュニケーションも、身振り手振りを交えながら何とかなっています。そもそも耳が遠い方が多いので、意思を伝達する場合ボディランゲージは基本です。ホームヘルパー講座でも声掛けはもちろん大切ですが、介護する側の顔の表情や手や身体の動きで「何をするのか」を伝える様に指導を受けます。
マリーンさんが大変なのは、訪問サービスの実施記録の記入と報告です。所属する事業所によって記入書式が異なりますが、必ず訪問サービス終了後は実施内容を記入し報告をします。マリーンさんは話し方に独特のアクセントはあるものの、日常の会話は普通に出来ます。日本の文字は、ひらがな・カタカナ・漢字とただでさえ種類が多い上に、業界特有の言い回しと言葉で報告しなければならないため、業界に不慣れな日本人でも始めのうちは少し戸惑います。
例えば、午後7時に訪問したところ服のままベッドに寝てテレビを観ています。トイレを清掃しゴミ出しを・・・と言った生活介助のサービスを記録に残す場合[19:00居室（又はお宅）を訪問時まだ寝巻への更衣を済まされていません。ベッドに右側臥位（みぎそくがい）で臥床（がしょう）してテレビを視聴されています。入眠（にゅうみん）はしていません。トイレ清掃とゴミ出しを介助し・・・]と書きます。身体介助の記録は後刻訪問診療の添付資料や事例検討会・訪問介護計画書の資料に使用しますので、さらに難しい用語を使って記録に残します。
例えば・・・　[14:00に訪問し定時排泄（ていじはいせつ）を介助する、寝床上で仰臥位（ぎょうがい）の姿勢でおむつを開けパッドを観察、尿量多量で紙オムツまで汚染有り、少量の不消化便（ふしょうかべん）も有り。左側臥位（ひだりそくがい）で汚染部の陰部・臀部及び肛門部を温湯で絞ったタオルで清拭（せいしき）し清潔な紙オムツとパッドをあてる。褥瘡（じょくそう）予防の為、臀部から仙骨部（せんこつぶ）をマッサージする。右足趾（みぎそくし）全体に発赤（ほっせき）を確認。ご本人より痒みの訴え有り。尿及び便失禁の意識無し。使用物品の後始末を行い退室する・・・]と記入したりします。分かりやすく言えば、お漏らしをしていたのでオムツ交換をしました。床ずれを防ぐため、腰を少し揉んであげました。右足の指全体に水虫の様な赤味が有ります。と言うところを変にこむずかしい用語を使って記入して報告したりします。覚えてしまえば特に難しい事ではありませんが、外国の方がこの様な身体部位の名称や状態を表す用語を習熟するのは結構難易度が高いと思います。実際マリーンさんもサービス実施記録を記入する時間帯になると苦労をしています。他の職員も記入を手伝ってあげていますが、本当に大変そうです。
以前はもっと簡単な記入と報告で済ませていたそうですが、介護業界全体の流れとして、介護サービスの質の向上や、より詳細な利用者状況の把握のため、細かいサービス実施記録の記入を行う様になっているそうです。
お子さんを大学に進学させたいとの事で「ガクヒとてもタカイ、オカネをタクサンカセガナイト」と笑顔で頑張るお母さんがほほえましくも力強く見えます。